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32.サマータイム [星空への招待]

 6月21日は夏至でした。北半球では太陽高度がもっとも高くなり、昼の時間も東京で14時間35分と最長です。午前4時頃にはもう薄明るいのですから、早起きして有効に活用したいものです。実際山の生活は朝が早く、登山者はすでに行動開始している人も多いことでしょう。
 夏の間はいっそのこと時計を1時間早めて、日本全国「早起き」型の生活に切り換えてみては・・・ これが「サマータイム」の考え方で、欧米諸国を真似て96年の導入を目指し、95年5月に国会への法案提出直前までいきましたが、結局持ち越されています。
 イギリスではデイライトセーピング・タイム(日光節約時間)とも呼ばれ、80年前から採用された制度が、どうして日本ではすんなりと受け入れられないのでしょう。終戦直後の1948年に一度導入されたものの、4年間で廃止したという経緯もあります。
 冬が長く、春・夏・秋が駆け足で過ぎ去る北の国々では、貴重な天の恵み、資源である夏の日照を有効に利用しエンジョイするための「夏時間」ですが、四季折々の恵み豊かな日本では蒸し暑い“夏”の日照を必ずしも有難いものとは受け止めない、お国柄の違いもあるでしょう。
 また、―つしかない「標準時」も不都合が生じる原因になっていると言われます。
例えばアメリカでは4つの標準時が便われていますが、日本では、言うまでもなく東経135度(兵庫県明石市を通る)を基準とする「日本標準時」ひとつで全国をカバーしています。このため、北海道から沖縄までーつの時計で済むというメリットがある反面、東西約2時間の時差が見逃されて、東寄りの道・県や西寄りの九州・沖縄で不便なことが起こります。この場合の「時差」とは日の出、日の入り時刻の差という意味ですが、夏至のころ、北海道では午前3時頃にはすでに夜明けが始まります。サマータイムが導入されると、これが更に1時間早まって夜中?の2時ころに夜が明けてしまい、逆に日の入りの遅れる西日本では、サマータイム導入で夜9時まで明るいといった不自然な状況が生まれます。現在でも、冬には東日本の早い日暮れと、西日本の遅い夜明けのため薄暗いなかの通勤・通学といった不便はあり、これを克服するには2つの標準時の採用を考えなければなりません。
 「早起きは三文の得」と言われますが、サマータイムの導入に関しては話は単純ではないようです。今回の導入論議には省資源・省エネルギーや余暇時間の増加につながるという見方のほか、景気回復への刺激になるという経済的なメリットも期待されており、逆に労働時間の延長になりかねないとの懸念もあります。欧米方式をそのまま導入するのではない独自の余暇対策が考えられていいと思います。制度うんぬん以前に、皆さんが1日1時間の夜更かしをやめて朝型の生活に切り換えることで、日本全体では莫大な量のエネルギーの節約になるわけですから。

 

「マガモ新聞」No.153(1997年7月1日、上高地ビジターセンター発行)より


23.皆既日食 [星空への招待]

 去年の今ごろ、私はインドにいました。8日間ほどの「皆既日食観測ツアー」に参加するため、上高地を緊張の面持ちで出発したのは1021日、バスターミナル周辺はカラマツ の黄葉で黄金色に輝いていました。

 彗星、流星、超新星、星食、月食、日食など、ふだんの星空とは違うイベント的天文現象数々あれど、「皆既日食」ほどドラマチックで見る者を魅了するものはないでしょう。

おそらく地球上で見られるあらゆる自然現象の中で、もっともスケールが大きく、且つ美しい出来事だと私は思っています。

 太陽が月に完全に隠される現象・皆既日食。地球上のある地点に月が影を落としながら移動していきます―――。月の直径は地球の約4分の1、太陽は地球の約100倍ですから両者の実際の大きさは400倍もかけ離れているのに、太陽は月より400倍遠くにあって、私たちにはほぼ同じ大きさに見えるという、偶然というにはでき過ぎた創造の妙によって生み出されます(月が若干遠いか太陽が近い時期ですと、見かけ上、太陽の方が大きくて 完全に覆い隠すことができず“金環日食”となることもご存じでしょう)。

 日食は地球上のどこかでは年に1回くらいの割合で起こりますが、“皆既”はごく狭い地域でしか見られず、その他の地域では“部分日食にとどまるか、何も起こりません。

日本国内では1988年3月に小笠原近海で見られて以来、この次は2009年7月22日の奄美大島まで、皆既日食はおあずけです。本州で見られるものとなると2035年9月2日まで待たねばなりません。(部分日食なら、来年3月9日に全国で見られます)

                   

 一般的に何か天文現象があっても「寝ていて見なかった」とか「あとで新聞で見るまで知らなかった」という人が大半ですが、白昼堂々と繰り広げられる皆既日食に気付かない人はいないと思います。太陽が70%ほど欠けたころから辺りが夕暮れのように薄暗くなり、皆既中はコロナの輝き(満月程度の明るさ)しか残りません。気温も2、3度は下がります。動物たちも異様な雰囲気に犬が遠吠えを始めたり、鳥たちが森のねぐらに帰ったりして、私たち人間も落ち着いてはいられなくなります。やがて太陽は糸のように細く痩せ、どこからか皆既突入時間に合わせたカウントダウンの声が出始めます。

「5、 4、 3! 2! 1! 0! ・・・」 実際には0になる数秒前から「ダイヤモンド・リング」と呼ばれる月の縁から僅か漏れた光だけが輝く状態が2、3秒あって、直後、真珠色のコロナが蝶のような広がりを見せる皆既食に入ります。計算上この“皆既食の状態は最長で約7分間ですが、昨年のインドの場合はわずか52秒(実際には40数秒だったと思われます。その代わりダイヤモンド・リングの継続時間は長かったようです)。 52秒間の黒い太陽を求めて、世界中から人々が集まりました。皆既中はうす暗闇のなかシャッター音や感嘆の声があちこちで響き、独特の興奮と緊張感に包まれます。

 とにかく筆舌に尽くしがたい、この世のものとは思えない神秘的な現象で、学術的に見ても太陽観測の貴重なデ一タが得られます。コロナやプロミネンスは皆既日食中にしか見られませんし、地面には「シャドウ・バンド」と呼ばれるプールの底に届いた光の揺らめきのような、不思議な影と光が踊ります。とても一度や二度の観測で“すべてを体験する”ことなど無理なのです。 ・・・「ダイヤモンド・リング」が皆既が終了する直前にもう一度現れて、アーッと思う間もなく一瞬のドラマは終わりを告げます。あとは回復する太陽を見守るばかりで核心部、見所はこれまでです。ふたたび細い太陽が姿を見せた時点で見ていた人達もやっと“我に返る”というのか、天に向かって惜しみない拍手が送られ、言い知れない感動が襲ってくるのもこの時です。私のような者でも(?)、胸がいっぱいになって涙が込み上げてくるのですから相当なものです。天文ファンの間では“日食病”という言葉もあるほど一度見てしまったら病みつきで、皆既日食があるたびに海外遠征する人も珍しくありません。その気持ちも分かります。(そういう私自身“日食病患者”ですから…。インドは一昨年11月の南米ペルーに続いて二度目で、たとえ地球の裏側でも、今後も可能な限り“この世で一番美しい自然現象”を追いかけます!!)
                  
 10月24日に皆既日食を見て、上高地に戻ってきたのは30日の朝でしたが、釜トンネルを抜けて、出発時とは一変した寒々しい光景にびっくりしてしまいました。カラマツの葉はすっかり散って初雪(みぞれ?)も降ったといいます。真夏のようなインドから帰国したのですから尚更です。すぐにひたすら寒い霜月に突入して、インドで見てきた皆既日食がますます夢の中の出来事だったかのように感じられるのでした。  

  

「マガモ新聞」No.144(1996年11月2日、上高地ビジターセンター発行)より


25.シーズン開幕によせて [星空への招待]

 今年も、上高地の新しいシーズンが始まりました。

 初めて訪れた方、何度も足を運んでいる方などさまざまと思いますが、その度ごとに新たな感動のある場所ではないでしょうか。上高地で働く私たちにとっても、何度目の入山であってもこの風景に感動し、新鮮な気持ちになります。そしてまた同じ時期でも、自然は私たちにそのたびに違った姿を見せてくれます。

 ○星空への招待○は、昨年からのつづきで第25話から始めたいと思います。上高地の自然をより楽しんでいただく為に、今年も星空に関する情報や話題を、この場をお借り して紹介させて戴くつもりです。「星空の観察会」もできれば回数を増やし、充実させていく予定です。

 ここに勤務する私たちは準備のため、一般の方たちより一足早く、4月23日に入山しましたが、晴れ渡った素晴らしい星空に迎えられたのは入山3日目の夜でした。半年ほど前の昨シーズン終了の頃は、遅い時間にならないと出会えなかった冬の星座たちが、日が暮れて間もない時刻にもう焼岳の方角に大きく傾いています。半年の間に星空も半周したことを実感します。西に傾く冬の星座と残雪の焼岳は、上高地に「春」の到来を告げる光景です。

 おまけに今年はヘール-ボッブ彗星が見えていて、遠ざかってひと頃より暗くなったとはいえ、まだしばらく肉眼で尾の伸びた姿を楽しむことができます。焼岳と西穂高岳の中間付近の夕空を探してみてください。昨年の百武彗星とこのヘール・ボップ彗星、二年連続で大彗星とめぐり逢えた幸運を、私たちはいつまでも忘れずにいたいものです。

 1997年、今シーズンの上高地は、歴史的な星空のもとに幕を開けました。

 

「マガモ新聞」No.146(1997年5月5日、上高地ビジターセンター発行)より


61.月夜にあそぶ [星空への招待]

 7月28日(水)、全国的に部分月食が見られました。観測されましたか?
蒸し暑い夜でしたが地域によっては雲に隠され、見損ねた方もいるようです。月食は月が地球の影に入る現象ですから、わざわざ星のよく見える浄土平のような場所に出かけなくても、街なかで問題なく観測できます。「満月」を望遠鏡で見るとすごいんだろうな、と期待して天文台などにやってくる子ども達も多いようですが、満月は眩しすぎるうえクレーターも(文字どおり)影を潜め、のっぺらぼうで観測には適しません。半月くらいの月がクレーターを見るには一番です。それこそ大迫力、スゴイ見え方ですよ。
 その満月の前夜、浄土平に遊びに行く機会がありました。西の地平線に金星が沈み、東から斜めに、月明かりが煌々と地上を照らし出しています。大型バス2台分の子ども達がぞろぞろと天文台に入っていくのが見えました。一方、ヘッドランプを灯した登山者が一人、一切経山から下りてきます。こんな時間に……
 わたしも吾妻小富士に登ってみることにしました。月明で足元は十分見えます。この日の浄土平は強風でした。蓬莱山の方角から絶え間なく吹きつけ、登りきったところでは息もできないくらいの強風です。田部井淳子さんのエッセイにあった一節(情報誌「浄土平・裏磐梯」P.7)を思い出しましたが、今夜は天の川も星空も月が明るすぎて見えません。こんな日は天文ファンの観測もたいていはお休みです。
そのかわり小富士の火口に落ちる影はまさに地上のクレーターで、自分の影も伸びて、強風にあおられながら不思議な光景を体験することができました。街の夜景は地上の天の川のようで……

 

浄土平にゅ~す」No.9(1999年8月1日発行)より 


58.金星が見ごろです [星空への招待]

1999年6月11日 20時00分ころの西の空

 

 夕方の西の空にひときわ明るい星が輝いています。冬ころからずっと夕空を彩り、私たちの目を楽しませてくれていますが、これが宵の明星・金星です。6月11日に地球から見て太陽の東側にもっとも離れる(東方最大離角といいます)位置にきて、日没後ずいぶん遅い時間まで見ることができます。6月22日の夏至に向けて日没時間も遅いので、午後9時半ころまで-4.3等級の輝きで人目を引くことでしょう。
 いま金星を望遠鏡でのぞいて見ますと半月状に見えます。表面の模様まで観測するのは難しい惑星ですが、明るさと形の変化を楽しむことができます。惑星は街なかでも観測に支障はなく、むしろ市街地のよどんだ空気(?)のほうが落ちついた像で観測できるとも言われます。明るさは7月15日の「最大光度」-4.5等まで、これからもう少し明るさを増します。地球との距離が縮まるため、しだいに直径が大きくなり、半月~三日月形に変化する様子を望遠鏡で観測できます。8月以降は太陽に近くなり、見づらくなってしまいますので、夕空での観測の好期は7月下旬まででしょう。今年2月、西の夕空で下から「水木金土」ときれいに惑星が並ぶというので話題になったことがありました。いま金星はかに座のM44プレセペ星団に接近しています。一番近づくのは6月13日で、双眼鏡で楽しめます。
 接近といえば、宵の南空では火星とスピカが並んで見えています。火星は5月2日が地球最接近でしたので急速に遠ざかりつつありますが、-1.1等とまだ十分明るく、赤く、目を引く存在です。一方、おとめ座の1等星スピカは白色で、雨上がりの夜空に両星の色の対比もあざやかです。

 

浄土平にゅ~す」No.4(1999年6月11日、浄土平ビジターセンター発行)より


57.強風と乾燥の“月世界” [星空への招待]

 前回も書きましたが、私はまだ「浄土平初心者」です。初めてここにいらっしゃった方、第一印象はいかがですか?その日の天候や季節によって印象もガラリと変わることでしょうが、車を降りて、まず風が強い!とびっくりされる方は多いようです。それと気温が低い、寒いということでしょうか。
 浄土平で風が強いのは「いつものこと」とベテランの方は驚きません。寒いのは標高の高さによるもの+風による体感温度の影響があると思います。風速1mの風で体感温度は1℃下がるそうですから、帽子など簡単に吹き飛ばされそうな強風が毎日のように吹きまくっている浄土平では、下界の0m地点と比較すれば15℃くらいは平気で違ってくる感覚となります。今の時期、外に長時間いることもつらいほどまだ浄土平は寒いのです。もちろん建物の中でもストーブは欠かせません。
 私の印象としては「乾燥した空気」が挙げられます。山肌の露出した砂礫も乾燥した雰囲気を醸し出していますが、梅雨時でも山はそれほどジメジメしません。これからの季節、いよいよ快適な気温・湿度で過ごせる日が多くなりそうです。
 浄土平の清浄で乾燥した空気は、美しい星空を見るうえでも大切な要因となっています。湿度が高いと夜露の原因にもなり、カメラのレンズを曇らせたりして厄介なのです。風が強く、寒いのは歓迎される条件ではありませんが、適度な風は夜露による曇りを防いでくれます。天体観測はあまり身体を動かさないので夜の寒さは身にしみますが、浄土平駐車場にやってくる天文ファンの装備を見ると、オートキャンプの要領でけっこう快適に過ごしているようです。
 吾妻小富士や桶沼は噴火口のあとで隕石の衝突跡と考えられるクレーターとはでき方が違うわけですが、浄土平周辺の荒涼とした景観はウサギ(雪形)もいて、まるで月面に降り立ったかのような印象も受けました。月世界に風は吹きませんが…。

 

浄土平にゅ~す」No.2(1999年5月23日発行)より 


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