SSブログ
星空への招待 ブログトップ
前の10件 | 次の10件

41.どこまで進む?ハイテク化 [星空への招待]

 北緯36度14分44秒、東経137度38分28秒、標高1570m ――――若干の誤差はありますが私が昨秋、先代河童構の上で測定した現在位置です。ハンディタイプのGPSを使い、人工衛星からの電波を受信するまでしばらく持っていれば、いとも簡単にデータを得ることができます。私のGPSはいわゆるカーナビ用ですが、携帯用に小型のものも増えてきていて、視界の効かない山中で現在地を確認するなど、使い方次第ではたいへん心強い味方になってくれるのではないでしょうか。カーナビゲーション・システムも出始めの頃よりかなり安価に使いやすくなり、急速に普及しました。なにより知らない土地をドライブするのにこれほど便利なものはなく、一度使ったらやめられなくなりそうです。
 GPSは、Global Positioning System(全地球測位システム)の略で、私たちの上空2万1000kmのところを周回している24個の衛星を使って、信号の到達する時間差から地上の現在位置を測定するものです。もともとアメリカ国防総省が軍事目的に開発したシステムを民間向けに開放しているわけですが、一般向けの信号はわざと精度を落としているらしく、ある程度は誤差も生じます。まぁ仕組みについては理解できなくても、ふだんは見ることのできない上空のGPS衛星と交信できる機械ということで、天文ファンの私などはわくわくしてしまうのです。
 仕組みはよく分からないといえば、最近の携帯電話やらインターネットなどは素人にとってはみんなそうで、理解不十分なまま使っています。上高地のような山間地はまだ利用「圏外」で、宝の持ち腐れなので私もケイタイは解約してしまいましたが、近々やはり人工衛星等を利用して地球上のどこからでも携帯電話が使える仕組みが整うらしく、修学旅行にきた女子高生が河童橋から彼氏に電話を入れるというような光景が、やがて上高地でも当り前になるのでしょうか。インターネットの波は上高地にもとっくに押し寄せていて、地元安曇村や旅館ホテル・山小屋など、ホームページを開設して最新情報を提供しているところは少なくありません。大自然の中といえどもハイテク化の流れに逆らわず、上手に付き合っていきたいものです。電子メールアドレスを毎回のように私も掲載してきました。E-mailを下さった読者の方、ありがとうございました。 (あさお)

 

注:執筆当時の内容をそのまま掲載しています。現在では米国国防省による民間向け強制精度劣化は解除されており、GPSの測位誤差は5~15m以内に向上しています。

 

「マガモ新聞」(1997年、上高地ビジターセンター発行)より


79.しぶんぎ座って? [星空への招待]

79.しぶんぎ座って? を更新しました。→こちらです。

 ↑ はちぶんぎ座にある“天の南極”


27.ねこの星座 [星空への招待]

 人にはネコ派とイヌ派がいるという話がありますが、あなた自身はどちら派でしょう。単独行動を好むかそうでないか、など一般的に両者の性質は好対照とされますが、どちらのファンも多く、人気は二分されているようです。おとぎ話ではネズミに騙され、“十二支”に入れてもらえなかった可哀そうなネコも、88ある星座の1つには加えられています。ネズミ座というのはありませんので、ネコファンとしては面目躍如?!の格好でしょうか。ただ、「やまねこ座」というおおぐま座とぎょしゃ座の間にある、ほとんどの人は見落としそうな脇役ですが…。全天一明るいシリウスや、プロキオンをもつ冬の大犬座・小犬座と比較してしまうと、冴えないな~と感じるかも知れません。

 

 上高地に、野生動物との出会いを楽しみにいらしている方は多いと思います。
 下界ではめったにお目にかかれない野鳥や、ネズミ、サル、カモシカ、アナグマ、オコジョetc、探している時にはなかなか見つからないものですが、こちらが予期していない場面でばったり遭遇するという体験は、多くの方がお持ちではないでしょうか。
 身近に動物が存在する環境は私たちの心を和ませてくれます。ただし、下界ではポピュラーな動物、たとえばイヌやネコは、上高地にはいません。正確に言えば、野生の状態では生息していません、と言うべきでしょうか。実のところ、上高地で働く従業員さんのペットとして連れてこられている、本来はいない動物たちがあちこちに飼われているようですし、お客さんがペットのイヌを連れて散策なさっている光景はよく見かけます。
 ちなみに私個人も、イヌ派ネコ派両方の肩を持つわけではないですが、十二支で言えばイヌ年の生まれで、性質としてはネコ型に近く、ペットにはネズミの仲間を飼っているという上高地住民の一人です。
 私も動物は好きですし、そのペットをかわいいとも思うのですが、上高地を利用する際のルールとしては「ペットは極力持ち込まないでほしい」とお願いしています。家族の一員的存在である場合もあって“絶対にダメ”とは言えませんが、非常にデリケートな生態系のなかにそうした動物が入り込むことは相当な脅威を与え、自然のバランスを崩しかねません。そう考えていくと、私たち人間が自然にいちばん大きな影響を及ぼしていることは間違いないわけで、ますます自律した行動が求められている気がします。

 

 

「マガモ新聞」No.148(1997年5月19日、上高地ビジターセンター発行)より


28.占星術の信憑性 [星空への招待]

 ちょっと硬いタイトルを付けましたが、雑誌などでよく見かけるいわゆる「星占い」は、どの程度信用できるのかを考えてみたいと思います。どういう訳か各種「占い」への関心は男性よりも女性のほうが高いようですが、宗教観の違いからか、日本では西洋ほど本気で参考にする人は多くはなく、現実の影響力はほとんどないと言ってよいでしょう。
 この『マガモ新聞』が発行される頃が誕生日の人は「ふたご座」になるわけですが、これは星空の中で太陽が何座にあるかで決まり、その通り道(=黄道)にあたる12星座を牡羊座から順に、およそ1ケ月ずつ振り分けています。惑星も黄道12星座のなかを移動していきますので、それらの配置や“相性”が運命・性格を左右するとの考えから、紀元前6世紀ころ、バビロニアの人々の天体観測から発祥したものです。ですから、天体の運行を正確に観測するという出発点は「天文学」と同じで、そこまでは科学的といえます。

 

 しかし最近の占星術は、娯楽化していると言ったら言い過ぎでしょうか、そこからどうして「今日の貴方にラッキーな数字」とか色、食べ物などが導き出されるのか根拠に疑問を感じます。てんびん座とみずがめ座はバランスのとれた性格の人が多く、いて座の人は誠実? 「さそり座の女」とひとまとめにできるでしょうか? …生まれつきの星座によって特定の性格になるなんてあり得ないことです。心理学者のシルバーマンは1600人の学生を対象に、誕生日によって「星座」に分け、性格との関係を調査しましたが、何の関係もなかったそうです。また、2978件の結婚と478件の離婚について、占星術でいう星座による“相性”の良し悪しを調べましたが、相性のよい結婚がとくに多いわけでもなく、相性が悪い星座どうしの離婚が多いわけでもない、という結果が出ています。

 

 詳しい内容は私も知りませんが、最近になって従来の12星座に加え、13番目の「へびつかい座」が発見されたことによって、あなたの運勢が変わる! とうたった占星術の本が流行しました。でも、12星座には入っていなくとも黄道が蠍座と射手座のあいだで一部“蛇遣座”を通っていることは前々から知られていたのですから、普段から星座に親しんでいる方にしてみれば、なぜ今さら? と感じます。軌道が黄道から少しずれている惑星が12星座以外に入ること時々あり、不吉な現象とは言えません。1999年に惑星の配置が十字架の形となり(グランド・クロスといいます)、そのとき地球は破滅する、という話もありますが、その真偽は2年後明らかになるわけです。
  「星占い」の楽しさを否定はしませんが、「不幸な星の下に生まれた」という言葉に象徴されるように、それを“運命”と決めつけ、科学的根拠のない忠告を過信するのは避けたいものです。

 

 

「マガモ新聞」No.149(1997年5月29日、上高地ビジターセンター発行)より


29.夜空を舞う鳥たち [星空への招待]

 “鳥目”という言葉もあるくらいで、一般に鳥類は暗闇が苦手なはずなのに、闇夜のなかを飛ぶ鳥の鳴き声を聞いたことはありませんか。私が耳にしたその声は、フクロウの仲間とは明らかに違う、ギヤッギヤッというような落ち着きのない声。姿は見えませんが意外と近くを飛んでいる感じでした。トラツグミか、それともヨタカ? 声の主はだれだったのでしょう(…その後の調査でどうやら声の主はホトトギス科のジュウイチらしいこと分かりました)。
 上高地には70数種類もの野鳥が姿を見せるそうです。5月の愛鳥週間は終わってしまいましたが、今回は夜空にトリの星座を探してみました。

 

 トリにまつわる星座って、いくつくらい思い付きますか?
 まず「はくちょう座」「わし座」…“夏の大三角”を形づくる、代表的な星座と言えますね。今なら夜の10寺頃、東の空に昇ってきています。白鳥座にはデネブ、鷲座にはアルタイル(=七夕の彦星)という1等星が含まれ、その上に見える明るい星が琴座のベガ(=織姫星)。この3つの星を結ぶと“夏の大三角”というわけです。


 ほかには春の星座「からす座」がおとめ座の南にあります。これで3つ目。

 

 じつは、ほとんど知られていませんが、夜空にはトリの星座がまだまだあります。
全部で9つも。ほかに「つる座」「はと座」「くじゃく座」「ほうおう座」「きょしちょう座」「ふうちょう座」・・・ いずれも南半球の地味な星座たちですが、ご紹介します。
  「つる座」は秋の南の地平線ちかく、もとは鶴ではなくフラミンゴの姿だったといいます。「はと座」はオリオンの足元のうさぎ座の下のほう、冬に見られます。
  くじゃく・ほうおう・きょしちょう座も秋ですが、南に低く、見つけるのは難しいでしょう。鳳凰はフェニックス、500年の寿命がくるたびに自ら焼け死んで灰の中から再び甦ってくるという不死鳥です。

 きょしちょうとは、くちばしの大きな鳥、つまり巨嘴鳥で、南半球に行くと見られる小マゼラン星雲はこの星座にあります。
 ふうちょう座とは、風鳥座。英語では“Bird of Paradise”、極楽鳥のことですが、日本からはまったく見えない星座のひとつです。

 双眼鏡を片手に、夜空の探鳥会というのも面白そうですね。上高地にはいない、珍しい“鳥”を発見できそうじゃないですか?

 

「マガモ新聞」No.150(1997年6月8日、上高地ビジターセンター発行)より


14.光害防止条例 [星空への招待]

 通年マイカー規制の敷かれた上高地へは、途中の沢渡でバスやタクシーに乗り換えなければならないという不便さがありますが、乗鞍岳山頂にほど近い畳平駐車場はマイカーによる乗入れができます。じつはこの畳平が、天体写真ファンのちょっとしたメッカ的存在になっています。ここで撮影された星の写真がコンテストに入賞することもしばしばあります。標高およそ2,800mの星空の美しさもさることながら、本格的な撮影にはかなり重い機材が必要なため、その場所まで車で入れるかどうかも観測地として重要なポイントになるわけです。中央高速を飛ばし158号線を経て、遠くは関東一円からこの畳平をめざして天文ファンが集まります。マイカーによるジプシー観測はもはや常識なのです。

                  ★

 このような移動観測を強いられるのは、私たちの身近なところで美しい星空が失われてしまったからにほかなりません。ご近所に良い観測地があれば、わざわざ何100 k m も離れた畳平まで足を伸ばす必要もないわけですから。しかし悲しいことに、都会で見上げる夜空は絶望的に明るく照らし出されていると言わざるを得ません。これを「光害」と呼んでいるわけですが、光害による被害者はなにも天文ファンばかりではありません。植物は開花や結実の時期を、強い人工光によってくるわされるといいますし、動物の行動など生態系全体に悪影響を与えるのです。金額に換算するのはむずかしいことですが、心やすらぐ自然な状態の“闇”というものを失った私たちの損失は、計り知れないものがあると思います。

                  ★

 たとえば最近では百武彗星が地球に接近した際に“ライトダウン”を呼ぴかけた自治体がいくつかありました。少しでも暗い夜空のもとで千載一遇の天文ショーを楽しむため、店舗やホテルなどに深夜の不必要な照明を自粛し、市民の観測に協力するようお願いしたのです。また、それより効力の強い自治体独自の法律、つまり“条例”として定め、美しい星空を守っていこうとしている町もあります。岡山県美星町の「光害防止条例」(1989年11月制定)がそうです。夜間照明に防犯・保安という大切な役割があるのはもちろんですが、必要最小限にとどめ、街灯などには大きめのカサを取り付けるなどして水平以上に光が漏れない工夫を求めています。このようにして照明に気を配ることは、電力消費のムダを省くことにもつながるのです。

 美しい星空を見ることのできる環境は、全人類にとってかけがえのない財産であると同条例の前文は言っています。ここ上高地でさえ、光害と無縁ではありません。星の背景の闇が「まっ暗」ではなく白みがかっていることに気が付くはずです。人工光による光害の影響は、半径100 k m以上にも及ぶのです。国際天文学連合では、人工光による夜空の明るさの増加は、自然の状態の1割をこえないよう勧告していますが、私達はすこしでもそれに近づけるよう何らかの努力をしていく必要があると思います。

 

注:執筆当時の内容をそのまま掲載しています。「畳平」の状況は大きく変わりました。 

 

 

「マガモ新聞」No.135(1996年8月22日、上高地ビジターセンター発行)より


11.“ヘボ彗星”接近中 [星空への招待]

 思いのほか早い梅雨明けを迎えた11日の夜はすばらしい星空が広がり、待ってましたとぱかり上高地駐車場のアスファルトに座り込んで星空を眺める男が一人おりました。理由は定かではありませんが、上高地はとくに夜の晴天率が低く、月明かりもない好条件下で星の観測ができる日はたいへん貴重なのです。星との語らいを精神安定剤のように感じている者にとって、曇天や雨天つづきの日々はドラッグが手に人らないのと同じで、辛いことです。かといって晴天続きも“睡眠不足”を招くし、ほどほどに晴れてくれることを望みます。 …それはさておき、その夜はペンライトに星図、双眼鏡を片手に、お目当ての天体捜しをしました。
 日本人は長い呼び名を略して言う悪い癖があります。その星も例にもれず、“HB彗星”とか“へ・ボ彗星”と表記されたりしていますが、正しくは「ヘール・ボップ彗星」といいます。これからハレー彗星や百武彗星以上に天界をにぎわし、マスコミにも盛んに取り上げられていくことは間違いないでしょう。なにしろ天文の分野では、世紀末に現れた“世紀の大彗星”と昨年7月の発見当初からすでに大騒ぎなのです。
 その後の追跡観測で移動を確認しましたので、たて(楯)座に見えたヤナギの柳紫のような淡い星像が、只今接近中のヘール・ボップ彗星であることは間違いなさそうです。今なら夜更けの南の空に煌々とかがやく木星が目印となり、そのちょっと上のほうと見当を付けることができます。7等星級の明るさなので、いくら上高地の空でもまだ肉眼では見えないようです。でもご安心下さい。地球に最も近づく来年の3月には-2等星クラスになると予報されており、悪い方に予報が外れたとしても、百武彗星の記憶も新しいうちに再び肉眼で見つけられる彗星に成長することはほぼ間違いなく、予報どおりなら歴史に残るすばらしい大彗星と私たちは巡り逢えることになります。
 こんなたいへんな訪問客を“ヘボ”などと呼んで良いものでしょうか。せめて親しみを込めて“ヘボちゃん”くらいにしておきましょう。 

 

「マガモ新聞」No.132(1996年8月1日、上高地ビジターセンター発行)より


6.がんばれ! バイオ君 [星空への招待]

 あまり気持ちのいい話題ではないかも知れません。ご注意下さい。
 私たち自然公園美化管理財団注:執筆当時の名称です)が管理している公衆トイレは、下は大正池から、中の瀬・ウェストン園地・バスターミナル・河童橋・小梨平・明神・徳沢と、奥行き約11kmの範囲に8か所ありますが、特に春から夏にかけて頭を悩ますことに、ニオイとハエの発生が挙げられます。
 いまは梅雨を迎えて気温も低いため、ひと安心といった時期なのですが、これから一日に何百人、何千人という単位で利用者を迎える夏の最繁忙期を控えて、効果的な対応策はないものかと日夜(?!)、考え続けています。強力な薬品を使うという方法もないではありませんが、環境や施設そのものへの影響、時間的制約等の課題もあって安易に選択できないやり方です。
 上高地では現在、簡易水洗を含めてほぼすべてのトイレが水洗式となっていますが、ただ流れているように見える“水”にじつは秘密があります。私などは“バイオ君”と呼んでひそかに声援を送っているのですが、この水にはバイオ、つまり微生物が目には見えないけれど溶け込んでいて、そのバクテリアの働きによって匂いの元となる成分を分解してもらおうという試みです。バイオなら自然環境への悪影響も心配いりません。
 ただし、そうは言ってもバイオ君の分解能力にも限界があります。夏の上高地のように極端に使用頻度が高くなると、どうしても彼らがいくら頑張っても追っつかないという状況になってしまいます。私たちも毎日の清掃など、最大限の努力はしていきますが、利用者の皆さんもあとに使う人のことを考えて、清潔な空間の維持にご協力をお願いしたいと思います。
 オープンなスペースですから、もう一方のハエさんについては外からも人ってこられる以上、完璧な防御法はないとも言えます。標高3,000mの稜線上でもハエに出会います。その逞しさを讃えるべきでしょうか… 

 そういえば、星空の中にもハエは隠れています。
 春の星座ですし、上高地からはまったく見ることはできませんが、天の南極近くに“はえ座”というのがあるのです。しかも私たちの憧れの星座・南十字星のすぐ下に。どうしてそんな星座を作ったのか理由を知りたいところですが、星座絵図を開いてみるとまさしく「蝿」。美しいものの傍に彼らの姿あり、は天界も地上も同じなのでした。

 

南天のはえ座付近

 

「マガモ新聞」No.127(1996年6月18日、上高地ビジターセンター発行)より


60.欠けた月を楽しむ [星空への招待]

1999年7月28日 部分月食の夜 20時33分ころ(食の最大)の星空

 

太陽・地球・月が一直線に並んで「だんご3兄弟」状態になると起こる現象が月食です。

三男がかじられるイメージでしょうか。月が地球の影に完全に隠されると皆既月食ですが、今回は図のように月が少し北にずれており、約40%が欠ける「部分月食」です。

時間帯も見やすく、子どもたちは夏休みですし、多くの方にご覧になってほしいと思います。

次回は来年7月16日で、皆既月食です。

 

浄土平にゅ~す」No.8(1999年7月17日、浄土平ビジターセンター発行)より


33.望遠鏡にまつわるエトセトラ。 [星空への招待]

(写真はイメージ)

 突然ですが、ビジターセンターに「天体望遠鏡」がやって来ました。口径10cm、屈折赤道儀式望遠鏡です。組立てを終えて、デビューの日、つまり実際に星空に向けられる日を待ち構えているのですが、上高地はあいにくの雨続きで未だそのチャンスがありません。飾っておいても意味のない代物です。これから大勢の人に“宇宙の素顔”を垣間見せてくれる道具として、大いに活躍してくれることを期待します。
 ところで、この望遠鏡は何倍?とありがちな質問をしたくなる人が大勢います。倍率にこだわる気持ちも分からぬではありませんが、あまり意味のないことです。望遠鏡の倍率は、対物レンズの焦点距離÷接眼レンズの焦点距離で求められますが、接眼レンズは交換が可能で、より短焦点のものを用いることによって極端な話、倍率はいくらでも高くできます。でも、何を見るかにもよりますが、その望遠鏡の対物レンズの性能以上に拡大しようとしても星像が暗く、見にくくなるばかりで、より細部まで見えてくるわけではありません。新聞に掲載された写真をもっと詳しく見てやろうとルーペで拡大しても、印刷の荒い粒子が見えてくるだけで細かな部分は結局わかりません。それに似ています。
 望遠鏡の性能は対物レンズの口径で決まる、これが大事なポイントです。では、口径10cmの性能とはどのくらいでしょう? 以下、理論上のデータですが、集光力は肉眼の約280倍、12等級の天体まで見えます。惑星でいうと冥王星以外すべて見えます。最近の天体「月」の表面などはもう手が届きそうな大迫力で見えてしまいますが、クレーターでは直径4.0km、割れ目(谷や溝)では200mのものまで確認できますから、月にある上高地ほどの規模の谷間は、余裕で見えるということです。
 重量わずか5.2kgの、吹けば飛ぶような望遠鏡ですが、光学的な性能はなかなか優れているのです。21年ぶりに探査機が着陸して話題の「火星」はいま、夕空のおとめ座にあり、1億9.000万km彼方の生の姿に接すれば、小さいながらも感慨深い気持ちになることでしょうし、時間が許せば、木星や土星そして天の川のなかの星雲・星団の数々… と一台の望遠鏡によって星空の楽しみ方は無限に広がってゆきます。

 

 PS.天候のせいもあって上高地の「星空を見る会」は今年まだ一度も開いていませんが、気楽にやっていきたいと思います。希望者がどのくらいあるか不明ですが、星座の説明はともかく、ゆっくり望遠鏡を覗いてもらうためにも定員制としました。ご要望が多いようなら、いつでも実施OK?なので、とりあえずビジターセンターに問い合わせてみて下さい。(←注:執筆当時の内容をそのまま掲載しています)

 

「マガモ新聞」No.154(1997年7月14日、上高地ビジターセンター発行)より


前の10件 | 次の10件 星空への招待 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。