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14.光害防止条例 [星空への招待]

 通年マイカー規制の敷かれた上高地へは、途中の沢渡でバスやタクシーに乗り換えなければならないという不便さがありますが、乗鞍岳山頂にほど近い畳平駐車場はマイカーによる乗入れができます。じつはこの畳平が、天体写真ファンのちょっとしたメッカ的存在になっています。ここで撮影された星の写真がコンテストに入賞することもしばしばあります。標高およそ2,800mの星空の美しさもさることながら、本格的な撮影にはかなり重い機材が必要なため、その場所まで車で入れるかどうかも観測地として重要なポイントになるわけです。中央高速を飛ばし158号線を経て、遠くは関東一円からこの畳平をめざして天文ファンが集まります。マイカーによるジプシー観測はもはや常識なのです。

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 このような移動観測を強いられるのは、私たちの身近なところで美しい星空が失われてしまったからにほかなりません。ご近所に良い観測地があれば、わざわざ何100 k m も離れた畳平まで足を伸ばす必要もないわけですから。しかし悲しいことに、都会で見上げる夜空は絶望的に明るく照らし出されていると言わざるを得ません。これを「光害」と呼んでいるわけですが、光害による被害者はなにも天文ファンばかりではありません。植物は開花や結実の時期を、強い人工光によってくるわされるといいますし、動物の行動など生態系全体に悪影響を与えるのです。金額に換算するのはむずかしいことですが、心やすらぐ自然な状態の“闇”というものを失った私たちの損失は、計り知れないものがあると思います。

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 たとえば最近では百武彗星が地球に接近した際に“ライトダウン”を呼ぴかけた自治体がいくつかありました。少しでも暗い夜空のもとで千載一遇の天文ショーを楽しむため、店舗やホテルなどに深夜の不必要な照明を自粛し、市民の観測に協力するようお願いしたのです。また、それより効力の強い自治体独自の法律、つまり“条例”として定め、美しい星空を守っていこうとしている町もあります。岡山県美星町の「光害防止条例」(1989年11月制定)がそうです。夜間照明に防犯・保安という大切な役割があるのはもちろんですが、必要最小限にとどめ、街灯などには大きめのカサを取り付けるなどして水平以上に光が漏れない工夫を求めています。このようにして照明に気を配ることは、電力消費のムダを省くことにもつながるのです。

 美しい星空を見ることのできる環境は、全人類にとってかけがえのない財産であると同条例の前文は言っています。ここ上高地でさえ、光害と無縁ではありません。星の背景の闇が「まっ暗」ではなく白みがかっていることに気が付くはずです。人工光による光害の影響は、半径100 k m以上にも及ぶのです。国際天文学連合では、人工光による夜空の明るさの増加は、自然の状態の1割をこえないよう勧告していますが、私達はすこしでもそれに近づけるよう何らかの努力をしていく必要があると思います。

 

注:執筆当時の内容をそのまま掲載しています。「畳平」の状況は大きく変わりました。 

 

 

「マガモ新聞」No.135(1996年8月22日、上高地ビジターセンター発行)より


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Thomas-Polar-Bear

東京都内でも国立天文台のある三鷹市では「光害防止指導指針」が策定されました。
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/a014/p018/d01800008104.html
美しい夜空を取り戻すためにも、このような規制が作られることに賛成です。
by Thomas-Polar-Bear (2006-01-14 16:21) 

asao-n

nice!とコメントありがとうございます。浄土平でも光害は年々増し、昔の暗夜を知っている人は残念に思っています。雲海が下界の光を遮る自然のカサをつくるときの星空は最高!だそうですが、私はまだその気象条件にめぐりあったことがありません。
by asao-n (2006-01-15 11:14) 

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